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東京地方裁判所 昭和55年(借チ)42号 決定

申立人 株式会社 国際

右代表者代表取締役 川上豊太郎

右代理人弁護士 福島等

同 岡部保男

同 白石光征

相手方 長谷川金治

右代理人弁護士 柴山圭二

同 近藤彰子

主文

一  申立人から相手方に対し、本裁判確定の日から一か月以内に金七三〇万円を支払うことを条件として、当事者間の別紙物件目録記載の土地についての借地契約の目的を堅固建物の所有を目的とするものに変更する。

二  前項の裁判の効力発生の日から、前項の借地契約の存続期間を三〇年に、地代を右同日の属する月の翌月分から月額金五万五〇〇〇円に改訂する。

理由

第一申立ての要旨

一  借地契約

1  当事者間に、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、次の内容の賃貸借契約(以下「本件借地契約」という。)が存在する。

契約締結日 昭和二八年一二月二一日

目的 非堅固建物所有

期間 昭和五七年三月三一日まで(昭和三七年四月一日更新)

賃料 昭和五四年四月以降月額金四万二三八〇円(三・三m2当たり金三二四〇円)

2  昭和三七年四月の契約更新時に更新料金六〇万円を相手方に支払った。

二  借地条件変更の必要

1  契約締結当時においては、本件土地の付近は、一部に中高層ビルがあるものの、大部分は木造二階建の店舗・事務所があるという状況であったが、現在では、神田駅東口真前の繁華街の一画として、ほとんどは商店、事務所、飲食店に利用されている中高層ビルとなっている。

2  申立人は、本件土地及び申立人所有のその隣接地(合計四三・六三m2)上に木造瓦ぶき二階建居宅兼店舗を所有していたところ、昭和五四年一〇月一七日火災により焼失したため、鉄骨鉄筋コンクリート五階建二〇四・四三m2の建築を計画し、本件土地の借地条件の目的変更を申入れているが、相手方はこれに応じない。

3  よって、申立人は、本件借地契約の目的を堅固な建物の所有に変更する旨の裁判を求める。

第二答弁の要旨

相手方は、本件借地契約の昭和五七年三月三一日の期間満了後は自己において次の理由により本件土地を使用する必要があり、更新につき異議を述べる予定でいるので、現段階で本件借地契約の目的を堅固な建物の所有に変更するのは相当でない。

すなわち、将来、相手方所有の本件土地東側隣接地のうち約六坪が東北新幹線用地として買収されることが予想されるが、そうなれば右土地の残余部分は約一一坪余にすぎなくなり、その上に建物を建築することは困難であるから、本件土地の全部又は一部の返還を受けて、右東側隣接地と一体として有効に利用したいと考えている。

第三裁判所の判断

一  本件借地契約の存在及び内容

本件資料によれば、前記第一の一1、2の事実が認められる。

二  借地条件変更の相当性

1  本件資料によれば、前記第一の二1、2の事実が認められる。また、鑑定委員会は、本件土地に係る都市計画法上の規制、その付近の土地利用状況等を検討した上で、本件土地については堅固な建物の築造を相当とする旨の意見を述べている。

右によれば、本件土地は、付近の土地利用状況の変化等により、現に借地契約を締結するとすれば、堅固な建物所有を目的とするのが相当となるに至ったものと認められる。

2  本件借地契約は昭和五七年三月三一日期間満了となるが、本件資料によれば相手方は本件土地付近に他にも土地を所有していること、仮に右期間満了後本件土地の返還を受けても相手方が自ら居住する等して直接使用する意向は有していないこと、本件土地が借地できなければ、申立人所有の隣接地がいわゆる盲地となってその価値が大きく減ずること、相手方主張の東北新幹線用地買収計画は本件土地付近において細部にわたっては必ずしも具体性を有していないことが認められ、これらの点等に照らせば、本件借地契約の残存期間がわずか一年足らずであることを考慮してもなお、本件申立ては相当であるといわなければならない。

三  付随処分について

1  本件においては、本件申立てを認容するに当たっては、申立人に財産上の給付を命ずる等して当事者間の利益の衡平を図る必要があると認められ、鑑定委員会も金六二一万五〇〇〇円の給付を相当とするとの意見を述べている。

2  右鑑定委員会の給付額は本件土地の更地価格の約一二・九パーセントに相当するものであるが、本件土地を借地できることによって申立人所有の南側隣接地と一体として利用できることから生ずる本件土地の価値の増加分を基礎として算出したものであることはその意見に照らして明らかである。

しかし、右のような価値の増加は、隣接する複数の狭小土地を一体として利用する場合、いわゆる盲地を道路に接する隣接地と一体として利用する場合等に一般に生ずるものであって、借地条件を非堅固建物所有の目的から堅固建物所有の目的に変更することによって生ずる申立人の利益・相手方の不利益の評価と直接結び付くものではない。もっとも、本件の場合、右のような価値の増加は、申立人が昭和五七年三月三一日の期間満了後も本件土地を引き続き借地できることを前提として把握されるものであり、借地条件の変更に伴って後記のように期間がその効力が生じた日から三〇年と延長されることを考慮すると、結果的には、右のような価値の増加は、本件借地条件変更によって生ずる利益・不利益の少なくとも一部を反映しているといえなくもない。

そこで、以上の点、残存期間が一年足らずなのに本件借地条件変更に伴って三〇年の期間が定められると、申立人が建築を計画している建物の構造・規模、用途、当裁判所においてはこの種事案における給付額は更地価格の一〇パーセント程度とされる例が多いこと等を勘案すると、本件借地条件変更に当たって申立人に命ずべき財産上の給付額は、本件土地の更地価格の一五パーセント程度を相当とする。そして、本件土地の更地価格を金四八一九万円とする鑑定委員会の意見は相当であるから、右給付額は、金七三〇万円(更地価格の約一五・一五パーセント)をもって相当とする。

3  鑑定委員会は本件土地の賃料を増額する必要はないとの意見を述べているが、これは、申立人の当初の誤った主張である月額七万七五六四円を現行の賃料と誤解したことから生じた結論であることは明らかである。そして、鑑定委員会の意見によれば、賃貸事例比較法及び地元精通者意見等を総合した本件土地の適正賃料は月額五万一八八八円(一m2当たり一二〇〇円)程度とされており、また、現行賃料が昭和五四年四月以降月額四万二三八〇であること等を勘案すると、本件借地条件変更に当たって本件土地の賃料を五万五〇〇〇円に増額するのを相当とする。

四  結論

以上の次第で、本件借地条件変更の申立ては、この裁判確定の日から一か月以内に申立人より相手方に対し財産上の給付として金七三〇万円の支払がなされることを条件として認容し、また期間については借地法の規定に適合させるため、右借地条件変更の効力が生じた日から三〇年とし、賃料については右効力の生じた日の属する月の翌月分から月額金五万五〇〇〇円に改訂することとする。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 岩渕正紀)

〈以下省略〉

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